時短勤務とは、育児や介護などの理由で、通常の勤務時間よりも短く働くことをいいます。
労働者の権利として育児・介護休業法第23条の中に記述されており、企業には時短勤務の制度設置が義務付けられています。
育児を理由に時短勤務ができる権利が法律で保障されているのは、3歳に満たない子を持ち、フルタイムで働く労働者。労働者から申し出があった場合、企業は1日の所定労働時間を6時間としなければなりません。
時短勤務を申請したとしても、人員が足りない、業態的に難しいなどの理由がある場合、時短勤務ができないケースもあることには注意が必要です。ただしこの場合であっても、企業はフレックスタイム制やベビーシッターの費用負担、リモートワークの導入、始業や就業時間の変更などの代替措置を講じる義務が法律で定められています。
時短勤務を断られたからといって諦めず、交渉を続けましょう。
時短勤務中に気になるのが、6時間以上を超えて働く場合についてです。育児・介護休業法を見てみると、時短勤務中の残業は特に禁止されていません。
時短勤務を申請しているからといって、6時間までしか働けないわけではないことを押さえておきましょう。
ただし、残業代の割り増し給与が支払われるのは、労働時間が1日8時間を超える場合のみ。また、同法第16条の8には「所定外労働の制限」という項目もあり、残業ができない旨を企業に伝えている場合、たとえ企業から指示があったとしても、残業をする必要はありません。
時短勤務とよく混同や比較されるのが、短時間正社員です。
短時間正社員制度とは、1日5〜6時間の労働時間で、正社員として雇用契約を結ぶ制度。企業が独自に制度を用意するもので、育児や介護などの条件がなくとも、企業との合意が取れれば利用できます。
時短勤務での転職は、不可能ではありません。ただし、時短勤務を初めから希望する人よりも、フルタイムで働いてくれる人を求める企業は多いものです。
職種や求人は限られる上、一般的な転職よりも難易度が上がることを理解しておきましょう。
時短勤務で転職をしたいと考えている人は少なくありません。ここでは時短勤務の現状についてを簡単に振り返ってみましょう。
パーソル総合研究所が2023年に発表した調査によると、正社員で時短勤務として働いている人は2.5%。
50人に1人以上が時短勤務していると考えると、決して少ない数ではないといえます。
コロナ禍で在宅勤務やフレックスタイム制などの働き方改革が進んだことで、時短勤務に対する印象も変わりつつあります。
厚生労働省は、短時間正社員制度などの導入を推奨する「多様な働き方の実現応援サイト」を公開。育児と仕事を両立させたいと考える人々をサポートしています。
また、厚生労働省が2020年に発表した「令和元年度雇用均等基本調査」によると、時短勤務制度を取り入れている企業は67.4%です。その2年前に実施された同調査では、この数値は65.1%。2年で2.3%も増加していることが分かります。
さらに、短時間正社員制度を取り入れている企業は16.7%。こちらも同じく2年前の調査では11.8%のため、4.9%も増加しています。
時短勤務を制度として確立している企業は年々増えてきています。時短勤務での転職も、じょじょに難易度が下がっているといえるでしょう。
厚生労働省が実施した「令和元年度雇用均等基本調査」によると、時短勤務を取り入れている業種は上から順に「金融業・保険業(94.9%)」「電気・ガス・熱供給・水道業(89.0%)」「複合サービス事業」(83.8%)」「不動産業、物品賃貸業(82.5%)」。
8〜9割の事業所が時短勤務制度を導入しているこれらの業種であれば、時短勤務を検討してもらえる可能性は高いといえるでしょう。
「令和元年度雇用均等基本調査」では、時短勤務を取り入れている企業を規模別にもまとめています。それによると、500人以上の規模の企業では97.9%、100〜499人は91.7%、30〜99人は79.7%、5〜29人だと64.2%。
事業規模が大きいほど、時短勤務制度を取り入れている企業は多くなることが分かります。
時短勤務の求人は少なく、応募する際にも注意が必要です。ここでは、時短勤務で転職するためのコツを紹介します。
時短勤務には、法定のものと企業の裁量によるものがあります。法定の時短勤務は、前述の通り、3歳未満の子どもを持つフルタイム労働者が、1日6時間勤務ができるもの。一方、企業の裁量による時短勤務は、パートタイムやフレックスタイムなど、企業独自に導入された制度のことをいいます。
一般的に、企業が独自に導入している時短勤務制度は、法定のものよりも条件がよいことが多いもの。求人に応募する際には、労働契約書などでよく時短勤務の内容について確認しましょう。
時短勤務でも活躍できるスキルや経験を持っていることや、自分の強みや価値観を伝えられることは、時短勤務のできる企業への転職活動を考える上で非常に重要です。
また、自分のスキルを活かせる職場であれば、働く時間が短くても、最大限のアウトプットができることでしょう。時短勤務を検討する場合、得意分野での転職をねらうことをおすすめします。
時短勤務でも仕事に対するモチベーションや責任感が高いことや、効率的に仕事を進められることなどを、具体的なエピソードや成果物で示しましょう。自分の強みや魅力をしっかりとアピールすることがポイントです。
ポートフォリオなどを作成し、企業側にあなたの魅力が伝わりやすいような工夫をすることも検討してみましょう。
転職活動には、履歴書作成や応募書類送付、面接対策など多くの時間と労力がかかります。また、交通費や衣装代なども必要になります。
育児と両立させるためには、転職活動にかけられる時間や予算をあらかじめ決めておき、妥協できるラインとできないラインを事前に決めておくことがおすすめです。また、家族や友人などで協力してくれる人がいれば、あらかじめ声をかけておきましょう。
ここからは、時短勤務に向いているおすすめの職種を紹介します。具体的な職業も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
在宅ワークやリモートワークが可能な職種は、時短勤務に適しています。自宅や好きな場所で仕事ができるので、通勤時間や移動時間を節約できるからです。
また、自分のペースで仕事を進められるので、育児との両立もしやすくなります。在宅ワークやリモートワークが可能な職種には、ウェブデザイナーやライター、翻訳者、プログラマーなどがあります。
シフト制は、自分の都合に合わせて勤務時間や曜日を選べるため、時間を調整しやすい特徴があります。フレックス制は、始業時間や終業時間を自由に決められるので、急な用事にも対応できます。
どちらも、時短勤務をより柔軟に実施できる職種といえるでしょう。シフト制やフレックス制がある職種には、コールセンターや販売員、事務員などがあります。
パートタイムや契約社員は、正社員よりも労働時間が短く、残業も少ないことが多いもの。また、専門性や資格を活かせる職種も多いので、スキルアップを狙うことも可能です。
パートタイムや契約社員などの雇用形態がある職種には、保育士や看護師などがあります。また、コンビニや飲食店の店員なども、パートタイムでの雇用形態を募集しています。
採用後のミスマッチを防ぐために気をつけるべき注意点について、詳しく解説します。
時短勤務の条件や待遇は、企業によって異なります。また、時短勤務が可能な職種やポジションが限られている企業がほとんど。
そのため、採用面接の早い段階で、希望する勤務時間や曜日などを具体的に伝えることで、企業側に検討する時間を持ってもらいましょう。
法定の時短勤務は、3歳未満の子どもを持つフルタイム労働者に与えられる権利です。しかし、子供が3歳になったら時短勤務ができなくなる場合や、通常の労働時間に戻らなければならない場合もあります。
保育園に入っているうちはフルタイムでも働けるかもしれませんが、子供が小学校に入学してからは、多くの保護者が育児と仕事の両立を難しいと感じています。
子供が3歳以降の働き方についても事前に確認し、長く働き続けられるかどうかを検討しておくことが重要です。
時短勤務は、他の従業員よりも労働時間が短く、仕事の幅や責任も限られていることが多いもの。場合によっては、キャリアアップやスキルアップの道が閉ざされてしまうケースもあります。
この場合、育児が終わってから再度フルタイムで働くことが困難になってしまうケースもあるでしょう。自分のキャリアを狭めることのないよう、資格取得や研修参加などで自己啓発したり、メンターや先輩などからフィードバックやアドバイスをもらったりすることを忘れないようにしましょう。
時短勤務では、育児や介護などの家庭の事情で急な休みや遅刻などが発生する可能性があります。職場での理解やサポートが得られるかどうかは、育児と仕事の両立に大きく影響するといえるでしょう。
採用面接や見学などで職場の協力体制やコミュニケーション方法などを尋ねたり、実際に働いている人から話を聞いたりすることで、働きやすさを確認できます。
時短勤務で転職したいと思っても、なかなか希望する求人が見つからないこともあります。そんな時には、他の選択肢も検討してみましょう。ここでは、希望する時短勤務の転職が難しい時の選択肢を紹介します。
場合によっては、8時間勤務の求人も検討してみましょう。時短勤務よりも多くの求人があるほか、収入や待遇が高いことも魅力の一つです。また、キャリアアップやスキルアップの機会が途切れづらいのも大きなメリットといえるでしょう。
育児との両立が難しくなるため、家族や周囲の協力やサポートは必須になるかもしれませんが、挑戦してみる価値はあるといえるでしょう。
一定の期間や時間を決めて働ける、派遣やパートでの働き方も検討してみましょう。自分の都合に合わせて勤務時間や曜日を選べるため、育児との両立がしやすい特徴があります。
また、多くの職種や企業に携わって働けるため、経験やスキルを広げやすいのも魅力です。
一方で、時給や賞与などが低いことや、雇用の安定性が低いことは念頭に置いておきましょう。収入や待遇について納得できるのであれば、検討したい選択肢です。
自分で仕事を探して働くフリーランスの働き方も検討してみましょう。自分の好きな仕事を選べることや、自分のペースで働けるため、育児中でも無理なく仕事と両立できることが大きなメリットです。
また、スキルや経験を活かした高収入の仕事が多くあることも魅力です。フリーランス協会の発表している「フリーランス白書2023」によると、フリーランスとして働きながら、400万円以上の収入を得ている人は全体の51.1%。1,000万円以上の年収がある人もおり、スキルと努力次第では会社員として働く以上の収入が期待できます。
一方、仕事の量が安定しないことや、自己責任で仕事を進めなければならないこと、自分を売り込む能力が必要なことをデメリットと考える人もいます。
しかし、自分で仕事を探したり、契約したりする能力は、時短勤務で転職する場合にも役立つため、けして無駄にはなりません。自分のキャリアを自分でデザインできる魅力的な働き方といえるでしょう。
育児や介護などの理由で通常の勤務時間よりも短く働く制度である時短勤務。時短勤務の条件で転職先を見つけようとする場合には、自分の希望やスキルに合った職種や企業を探したり、意欲をアピールしたりすることが必要です。
また、場合によっては時短勤務以外の選択肢として、フリーランスなどの働き方も柔軟に検討してみましょう。